Cajun and Creole

私がアメリカ南部料理のことを話すと、「それはケイジャン料理のことでしょ。」と 聞かれることがよくある。だが、アメリカ南部料理とはすなわち ケイジャン料理のことなのかと問われると、私は Yes と答えるには、 かなり違和感を覚える。確かにケイジャン料理はアメリカ南部料理の一つであることは、 間違いないが、ケイジャン料理が"典型的な"アメリカ南部料理というには、かなり無理が あるからだ。 どちらかといえば、南部の中でも、かなり特徴的な料理といったほうが、的を射ているだろう。

ケイジャン料理が生まれたルイジアナ州は、南部の中でも特に特異な歴史と文化をもつ。まず この州は、1528年から1756年までフランスの統治下にあったため、他の南部の州と比較して、 際立ってフランス文化の影響が強い。ニュー・オリンズでは、 Cafe de Monde のような、フレンチコーヒーのおいしいカフェが多くあり、 Po−Boy とよばれる、フランスパンで作られたサンドイッチが、あちこちで食べられるのは、 フランス統治時代の名残である。

ルイジアナの料理では、その調理法でもフランス料理の影響力が極めて強い。例えば、 ガンボなどの煮込み料理では、油と小麦粉を根気よくいためて ルーをつくり、味のベースにする。またフランス料理では、 玉ねぎ、セロリ、人参をみじん切りにして炒めて調理することが多く、この組み合わせを ミルポワ (mirepoix) と呼ぶのだが、 ルイジアナでは人参の代わりに、 緑のパプリカ green bell pepper が使われ、玉ねぎ、セロリ、 緑のパプリカを炒めたものは、 holly trinity と呼ばれている。

ルイジアナ州は、1763年のパリ条約によって、にスペインに支配される。 スペインの政治的影響力が強くなると、 当時英国政府によって迫害されていた、Acadia とよばれるフランス系 少数民族が、カナダのケベック州から移住してくる。ケイジャン (Cajun) とは、その Acadia にルーツをもつ人々と文化のの総称で、 アカディアン (Acadian) がなまったものと言われている。 アカディアンはその多くが、南ルイジアナの農村地域に住み、 カソリックを信仰し、Acadian French という固有の 言葉を話して、独自の文化と生活習慣を守り続けた。

ルイジアナに住む、アカディアンを象徴する旗。現在ルイジアナには約40万人のアカディアンが住んでいる。

一方、ルイジアナの食文化を称するのに、クレオール(Creole) という呼び方がある。 Creole は、スペイン語の native bone という意味の "Criolle" に由来する。 "この土地に生まれ育った"という意味であり、 Acadian のように固有の民族を示すのではなく、 フランス、スペイン、アメリカン・インディアン、 アフリカ の文化が融合して生まれた、より普遍的なルイジアナの文化を称している。 ルイジアナの農村地域に住むケイジャンとは異なり、都市部に住むやや上流階級の人々の生活スタイルを 示すようだ。

このように、ケイジャンとクレオールの言語的背景には、明確な民族的、社会的な違いがある。それゆえに、 食文化においても、ケイジャンとクレオールを区別しようとする人は少なからず存在する。 一説には、トマトベースのものをクレオール、トマトが入っていないものをケージャンと主張する人もいる。 しかしながら、食文化に関する限り、ケイジャンとクレオールを、厳密に区別することはかなり困難だ。 ケイジャンやクレオールの料理として主なものは、 ジャンバラヤガンボshrimp Creole などがあげられるが、特徴的なのは、その独特のスパイスやハーブの風味である。 簡単に再現できるように、 クレオール・シーズニング などとよばれる、ミックス・スパイスがアメリカで 広く市販されており、淡白なチキンや魚介類との相性がよい。まるでインド料理を再現するための カレー粉みたいに使える便利ななものなのだが、 実際のインド料理がカレー粉ひとつで再現できないのと同様、ルイジアナの料理も非常に多様性があり、 実のところ、かなり手間隙かかる料理が多かったりする。

Low Country

ジョージア州サバンナのダウンタウンににあるPaula Deen の人気レストラン、 The Lady & Sons 。一度に 300 人収容可能なスペースに、 全米中から多くの観光客をひきつける。

アメリカ南部の家庭料理の本で、最も売れている料理本と言えば、 Paula Deen による The Lady & Sons と言って間違いないだろう。彼女はアメリカのケーブル、 FoodTV Paula’s Home Cooking などの番組に出演し、 数多くのアメリカ南部の家庭料理を全米中に伝えている。彼女はジョージア州の Albany の生まれだが、離婚を期にジョージのサバンナで ケータリングを息子たちと始める。その後サバンナのダウンタウンで同名の レストラン Lady's and Sans を開き、南部の代表的な 家庭料理をビュッフェ形式で提供をした。今日では全米各地から多くの観光客が 彼女のレストランを訪れている。

このジョージアのサバンナから、サウスカロライナ州のチャールストン あたりの、大西洋の沿岸地域を、ローカントリー (The Low Country) という。古い南部の 歴史的遺産が多く残された地域であり、全米各地から、多くの観光客が 訪れる、南部文化の中心地と言っても過言ではない地域だ。独特の南部料理も、 この地域を中心に形成されたと言ってもよいだろう。

もともとローカントリーは、 全米一の米の生産地であり、南北戦争が始まるころには 全米の米の全輸出量のほとんど全てが、この地域で生産されていた。 この豊かな米の生育を支えたのは、亜熱帯性の気候と、 西アフリカから連れ去らわれた黒人の奴隷たちである。彼らのうち多くは、 アフリカの地で既に米の生産に携わっていた。南北戦争終了後、 この地域の米の生産は大きく衰退していくことになるが、 彼らがアフリカから伝えた米食文化は、今日でもこの地にしっかりと根付いている。

さらに、アフリカ系の人々がアフリカからこの地に伝授したのは、米の生産方法 だけではない。彼らは米の調理方法をも伝え、この地域の食文化の形成に大きな 影響を与えた。今日でも、米はこの地域の食文化で欠かすことのできない、 重要な作物であり、とくに精米された白い長粒米が好んで食されている。 特徴的な米料理には、 Hoppin' JhonLimpin' SusanRed Rice などユニークなもの多い。またノースカロライナでは、胡麻を使った料理が多く、 インゲン豆と胡麻のサラダ など、日本人にもなじみやすい料理が多い。

Florida Cuisine

フロリダがアメリカ南部の一部であると聞いて、なじめない人も多いかもしれない。実のところ、 アメリカにおいても、フロリダは南部の中で、最も“南部らしくない”州として、称されることが 非常に多く、しばしば南部のカテゴリーからはずされることもある。 そもそも“アメリカ南部”というカテゴリーが使われたのは政治的な目的である。 南北戦争のときに南部連合軍に参戦した州を南部と分類したのが始まりだ。フロリダは、南北戦争開戦当時、 南部の中で最も人口の少ない州であった。しかしながら他の南部の州と同様に サトウキビや綿花などのプランテーションによる投資が行われ、カロライナやジョージアから、 プランテーションの所有者とともに多くの黒人奴隷がつれてこられた。南北 戦争後も、ジムクロウ法に則って、黒人差別政策を通した点は、 他の南部の州と何ら変わりはない。

フロリダが今日のような観光都市に発展するきっかけは、 19世紀始めの鉄道の開発にある。 いくつかの鉄道会社を 所有していた Henry B. Plant は、 タンパにTampa Bay Hotelを建設として、冬季の観光客を呼び込む豪華な ホテルを築いた。続いて Henry Flagler は、ジャクソンビルから、 キーウエストに東海外沿いに鉄道を築き、同時に、パームビーチやマイアミなどの 鉄道沿いの都市に、観光客を呼び込むためのホテルを次々に建設した。 観光業の発展とともに、フロリダはアメリカの他の州から多くの人々が移住し、 1920年代、マイアミやパームビーチの土地は高騰し続けた。

第二次世界大戦後も、フロリダの人口は急速に増え続ける。 さらに1958年のキューバ革命により、大量のキューバからの移民が訪れたことにより、マイアミを 中心とした南フロリダには、スペイン語を話す多くのキューバ人のコミュニティーが 形成された。それと同時に、西インド諸島や中南米各地から、スペイン語も母国語とする 人々移民が増え続けた。今日マイアミで南部なまりの英語を聞くことは非常に稀なことでしかない。 代わりに聞こえてくるのは、圧倒的な量のスペイン語である。

キューバからの移民は、キューバの食文化をもフロリダにもたらした。1960年代以降に アメリカに移住した人々は、クレオール文化のようにローカルな食文化と融合することなく、 よりオリジナルに近い形で継承している。キューバ人が好む black bean を使ったblack bean soupなどが とくに有名だ。

もう一つ特徴的なことは、フロリダの亜熱帯性の気候である。南部の気候はうだるように 暑いと思われているようだが、実のところ、私の住んでいたアトランタのような内陸では、 東京の気候と大差はない。梅雨がない分夏が長いが、冬は東京と同じように寒いし、 時として道路が氷結したり、雪が降ることさえ珍しくない。しかしながら、南部と言っても、 広い。南端のフロリダ半島では、一年を通じて温暖な気候が続き、オレンジなどの柑橘系の 果物など、亜熱帯性の気候に適した農産物の宝庫でもある。とくにフロリダの 特産物である Key lime というライムを使ったデザートなどが有名である。キーライムは、 フロリダのキー諸島以外ではほとんど見ることができない、一見酢橘のような形をした、 小ぶりのライムであり、普通のライムよりもやや酸味が強い。このキーライムと使った、 Key lime pieは 南部の代表的なデザートでもある。

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