Corn Bread

多くのアメリカの料理本にはよくこう書いてある。 "オーブンからただよう焼きたてのパンの香りに勝るものはない"と。この言葉が真実であることは 間違いない。パン作りにはもう一つ忘れてはなら ない事実がある。家でパンを焼くのはめちゃくちゃ大変なのである。  だから家事労働の中で、パンを焼くという仕事が、もっとも早くアメリカの 家庭から消え去ったのは、非常に理にかなったことである。今日アメリカの スーパーでは非常に豊富な種類のパンが、しかもとても安く手に入る。 いくらこちらで小麦粉やバターも安く手に入ると言っても、パンを焼く 労力を考えたら、家でパンを焼こうなんて気になるのはちょっと難しい。

だけど南部の食卓では欠かせない、 コーンブレッド は別である。あれだけ 置いてある食品の種類が豊富なアメリカ南部のスーパーで、焼きあがった コーンブレッドを買おうとすると、きっとすごく苦労する。なぜなら、 コーンブレッドはみんな家で焼くもので、家庭それぞれ独自の味が あるからだ。焼きあがった コーンブレッド の代わりに、スーパーに 置いてあるのは、数々の cornmeal mix と呼ばれる、 コーンミールと 小麦粉などをブレンドしたコーンブレッドの素。これさえあれば、材料を 混ぜ合わせるだけで簡単に コーンブレッド が焼ける。 cornmeal mix など手に入らない日本の家庭でも、 コーンブレッド を焼くことは可能だ。材料さえ用意すれば、あっと言う間に好みの味の コーンブレッド を焼くことが出来る。問題はその材料だ。

コーンブレッド のベースとなるのは、コーンミールと小麦粉。 Appalachian corn bread のようにコーンミールだけ でシンプルに 焼く場合もあるが、何割かは小麦粉を混ぜる場合の方が多いようだ。 コーンミールは南部料理には 欠かせないコーンから作った粉。 grits よりもう少し細かくコーンを挽いたものだ。使われる コーンの種類によって、黄色いものと白いものものが主流であるが、 それぞれ stone ground と呼ばれる粗挽きのものと そうでないものがある。黄色いコーンミールを使うと、独特の歯ざわり が楽しめるが、白いコーンミールを使うとなめらかな感じに仕上がる。

アメリカでも plain なタイプのコーンミールを見つけるのはちょっと難しい。 小麦粉とブレンドして使うことが多いので、 cornmeal mix や、 self-raising と呼ばれる、膨らし粉と塩をブレンドしたものの方が多く売られている。 self-raising cornmeal でも、塩と baking powder の分量を加減すれば、使えないことは ないが、こちらの塩分は日本人の感覚からみるとちょっときつめ。出来れば plain なタイプ を買って、好みな味に仕上げることをお勧めする。 なお日本では、少しお値段は高めだが、製菓材料の専門店などで、コーンミールが手に入る。

コーンミールと同様に、南部料理に頻繁に使われて、とても南部っぽいものが バターミルクだ。バターミルクと言うからには、バターの味がするのかなあと 思いきや、味わいはバターと言うより、ヨーグルトに近い。 バターミルクと言う名前の由来は、もともと バターを作ったミルクの残り汁だったらしい。今日では工場で人工的に 酸化させて生産されるが、この酸が重曹の働きをよくする役目があるので、 重曹とあわせて用いられることが多い。 バターミルクは日本では手に 入りにくいと思うので、プレーンヨーグルトを牛乳で 薄めて代用すれのをお勧めする。実のところ、代用などといったら、ヨーグルトに失礼なくらい、 上品な味に仕上がる。ただしヨーグルトと牛乳をよく混ぜ合わせること、またヨーグルトは メーカーや発酵状態によって硬さがことなるので、牛乳の分量は若干の微調整が必要だ。

その他の材料としては、とかしバターに牛乳、砂糖、塩、ベーキングパウダーと 重曹などである。バターの代わりにベーコンの油が溶けたものを混ぜるときもある。 ここで紹介しているレシピは、私の好みであまり甘くしてないが、人によって、 砂糖をふんだんにつかったカステラみたいなコーンブレッドを好んで焼く人もいる。 シンプルに具を入れないで焼くものが一般的だが、チーズやスパイス類を入れた、 チーズ・コーンブレッドもお勧めだ。

Biscuits

2枚のラップにはさむようにして、整形したのち、好みの 大きさに切り分ける。

2センチ以上の間隔をおいて、パラフィン紙を敷いた鉄板の 上に並べる。

コーンブレッド と同様に、南部の家庭でよく焼かれるのが ビスケット。 日本やイギリスでビスケットと言えば、薄くって甘くないクッキーのような ものをさすが、アメリカの ビスケットはもっと大きくて、ふっくらしている。日本では ケンタッキーフライドチキンでおなじみだ。イースト菌をつかった小型のパンの ような angel biscuits やバターミルクと重曹を使わないでベーキングパウダーだけで 仕上げた baking powder biscuits。 ベーキングパウダーも重曹も使わない beaten biscuits など、その種類と作り方は多様だ。でも最も南部で一般的なのは、重曹と バターミルクを使った Southern buttermilk biscuits

シンプルに何も入れないで焼いて、シロップやバターだけで食べるのもよし。また 大きめに焼いて、フライドチキンをはさんでサンドイッチにしてもよし。中に具 を入れて焼いてもよし。具を入れて焼くビスケットとして最もポピュラーなのが チェダーチーズを入れたチーズビスケット。それ以外に、レーズンやくるみシナモンを 加えて焼いてもシナモン・レーズン・ビスケットもよし。ソーセージを入れて焼いた ソーセージ・ビスケットやゴマを入れて焼いた benne biscuits なんてのもある。 でも最も南部らしいのが sweet potato を入れて焼いた、 sweet potato biscuits だろう。オレンジ色の sweet potato が手に入り難い日本では、人参を使った carrot biscuits をお勧めする。スパイスと黒砂糖の絶妙のコンビネーションで、 人参嫌いの人でも、これが人参から出来ているとは気付かないだろう。

形はビスケット型で丸くくり貫いたものが一般的だ。ビスケット型が手に入らない場合、 空き缶のようなもので代用すればよいだろう。くり貫くのが面倒くさいときは、 写真のように四角く切ればよいし、それも面倒くさいときは、スプーンで丸く 鉄板の上に生地を落とすだけでもよい ( drop biscuits と言う)。でもくれぐれも 形は平らに、大きさは均等にそろえるように注意しよう。

ビスケットの作り方はいたってシンプルなのだが、ふっくらと軽く焼き上げるためには、 ちょっとしたテクニックが必要だ。まずバターやショートニング、又はラードをきちんとよく粉に混ぜ 合わせること。バターをナイフで細かく切ってから粉に混ぜ、 フォークを使って粉になじませていくと、楽に仕上がる。 バターの塊がなくなって、全体的にシットリした感じになればOK。液状の 材料を粉に混ぜ合わせたら、今度は必要以上に練り上げないで、出来るだけすばやく仕上げる。 beaten biscuits のように、よく練り上げなければならないタイプのビスケットもあるが、 buttermilk biscuits baking powder biscuits を作るときはこね過ぎると出来上がりが 硬くなる。生地はかなり柔らかめなので、2枚のラップにはさみながら整形すると失敗なく仕上がる。

Muffins

種類豊富なマフィン。左から lemon poppy seed muffins, sweet potato corn muffins, apple muffins.

マフィンはちょっとした軽食や小腹がすいたときにこちらでよく食べられている、カップケーキの ようなものだ。アメリカでは薄力粉よりも、グルテンの強い小麦粉を使って焼くので、 カップケーキと言うよりは、菓子パンに近い感じに仕上がる。 とくに南部独特というものではないが、非常に簡単に作れるので、 日本でも試してみる価値が大きい。 ここではバターミルクやヨーグルトを使ったレシピを紹介しているが、牛乳だけで作っても、全然 問題ない。その場合は重曹を省略して、べーキングパウダーの量を2倍にすればよい。 ナッツやフルーツ類が下に沈むことなく、 満遍なく生地に行き渡るようにするために、まず粉類とナッツやフルーツ類を最初に混ぜ合わせた後、 牛乳や卵などの液状の材料を加えて、軽く混ぜ合わせる。

マフィンはマフィン型を使って焼くのが普通であるが、日本でよく売られている紙製の カップケーキのケーキを使ってもよい。 マフィン型の大きさは、小さなものから大きなものまで、 かなりヴァラエティがあるので、自分の好みの大きさのものを見つけよう。 注意しなければならないことは、大きいものほど、焼く時間がかかるので、 少し微調整が必要だ。
中に入れる材料に少しばかり手を加えることで、好みの味が手軽に作り出せるのも、 マフィンの魅力の一つだ。ここで紹介するレシピは、砂糖の量を控えてあまり 甘くしてないが、好みでもう少し甘くしてもよい。 生のフルーツや缶詰のフルーツを直接加えるものとしては、 ブルーベリマフィン アップルマフィン クランベリーマフィン パイナップル・ココナッツ・マフィン などがある。クランベリー(cranberry) は 感謝祭の食卓で、ターキーのソースと使われる アセロラの実のような小さな果実だ。残念ながら生で食べると酸味が強くて、あまりおいしく ないのだが、このようにベーキングや 料理のソースとして使うと、この酸味がほどよいアクセントに なる。

生地にペースト状にした材料をまぜあわせるタイプのマフィンとしては、 バナナマフィン, スィートポテト・コーン・マフィン キャロット・アップル・マフィン などがある。ここではバナナマフィンにはナッツ類を入れたが、 代わりにチョコレートチップを入れてもよいだろう。 スィートポテト・コーン・マフィンはコーンミールとアメリカン・スィートポテトを生地に混ぜ込んだ とても南部っぽいタイプのマフィンだ。ここでは黒砂糖やスパイス類を加えて、少し濃厚な味わいに してあるが、これらを加えないで、シンプルにスィートポテト本来の味を いかして作ったマフィンも捨てがたい。 その他の、マフィンとしては、レモンの香りを利かせた生地に、麻の実を 混ぜ込んだ レモン・ポピーシードマフィンや少し甘めに味付けしたコーンブレッドの生地にピーカンを加えた ピーカン・コーン・マフィンなどがあり、そのヴァラエティの豊かさは無限だ。

Scones

スコーンは南部独特のものでないばかりか、本来アメリカのものともいい難い。 一説にはイギリスのスコーンが、アメリカ南部でローカライズされたのがビスケットだとも 言われている。スコーンはそもそも、 イギリスの tea break 習慣とともに発展したものであり、 あくまでもお茶やコーヒーとともに食べるものなので、ビスケットに比べると、パサパサした 感じがする。 また、 ビスケットは南部独自のグルテンの少ない小麦粉を使うのに対して、 スコーンはグルテンが多い小麦粉を使い、固めの生地でどっしりと した感じに仕上げるのが特徴だ。レシピでは日本で手に入れやすい薄力粉を使っているが、 アメリカの一般的なall-purpose flour のようにグルテンが 多い中力粉を使うか、薄力粉に強力粉を3割程度混ぜて使うと、スターバックスで 食べられるような、アメリカのスコーンに近い感じになる。
一方 スコーンの作り方はビスケットにかなり似ている。粉にバターをよく練りこんだら、 牛乳と卵を入れて軽くこねながら、円形に整形して扇形に切り分ける。生地にナッツ類や ドライ・フルーツを入れる場合は、粉類にバターを練りこんだ直後に加える。種はビスケットよりも 固めなので扱いやすい。牛乳の量は、卵の大きさが小さい場合、少々大目に加えて生地の硬さを 調整するとよい。ビスケットと時と同様、ラップにはさんで整形すれば、手粉を使う 必要もなく、失敗も少ないだろう。

Quick Bread

クイックブレッドとは、イースト菌を使わず、ベーキングパウダーや 重曹だけで焼き上げる bread 類の総称だ。だから、ビスケットやマフィン、スコーンなども 広義な意味で、クイックブレッドに含まれる。だけどとくにローフ型で焼かれるものは、とくに これといった名称がないのか、ただ単にクイックブレッドと呼ばれているようだ。

クイックブレッドの種類は非常に豊富だが、 バナナブレッド パンプキンブレッドは、アメリカの料理本に 頻繁に登場するお馴染みの一品。砂糖や牛乳、もしくは バターミルクの量は、カボチャやバナナの大きさや、甘さ加減にあわせて調整するといいだろう。

クイックブレッドの作り方は、中に加えられる素材の種類によってかなり違う。 一般的に、 バナナブレッドはパウンドケーキのように、バターをクリーム状にして作るが、 パンプキンブレッドはバターを使わないで、サラダ油を使う。 クランベリーブレッドは、ビスケットのようにバターを小麦粉に練りこんでから、作る 場合もあるが、バナナブレッドのように、バターをクリーム状にしてから、他の材料 を加えることもある。パウンドケーキのように、バターをクリーム状にして作ったほうが、 出来上がりがしっとりした感じになるようだ。

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