82 Baking Tips

アメリカ式のパイをマスターする

 私が母から譲り受けた、お菓子作りの入門書「ベターホームのお菓子」という本には、パイ生地について以下のように書かれています。

パイ生地の作り方は、大きく分けると二つの方法があります。フランス風にバターを折り込む折パイは、時間がかかって難しいけれど、きれいな層が出来て軽く仕上がります。アメリカ風の、粉にバターを混ぜ込む練りパイは、作り方は簡単ですが、作る方は簡単ですが、折パイのようなきれいな層がが出来ません。(1983年3月1日初版発行 73 頁)

 なんだか、アメリカ風のパイがフランス風パイの劣化品みたいな扱いですが、パイ生地には、その作り方によって、折り込み式パイと練りこみ式のパイがあるというのは、日本のお菓子作りにおいては、一つの常識のようになっています。折り込み式パイというのは、もともとは、フランス語でpâte feuilletée (パートフイユテ)と呼ばれるもので、生地を何層にも折り込みながら、細かいミルフィーユのような層をつくることを目指します。一方、練りこみ式のパイとはフランス語でpâte brisée(パートブリーゼ)と呼ばれ、粉と油脂を練りこみながら作ります。折り込み式パイは、英語では puff pastry と呼ばれ、その名のとおり、焼き上がりはパフっと膨れ上がり、空気を含んだ、ふんわりとした焼き上がりが持ち味です。アメリカでは、ポットパイのように、器に蓋をして焼き上げるときなどに使われます。一方、練りこみパイは、shortcrust pastry と呼ばれ、キッシュの土台やタルトに使われ、ふんわりさせるどころか、わざわざ重石をして膨れ上がらせないように注意して焼き上げるものです。

 このように、折り込み式パイと練りこみ式パイは、作り方が異なっているだけではな、目指すべき焼き上がり、使われる目的もかなり異なっています。ところで、この日本語で言う、パイ生地の「パイ」というは一体何を示しているのでしょうか?勘の鋭い人ならお気づきかもしれませんが、本来のフランス語にあるパート(pâte)というのは、英語でいう dough のことで、生地という意味です。フランス語ではピザの生地をpâte à pizza といい、シュー生地のことをpâte à choux と言います。とくに、pâte feuilletée とpâte brisée が何か特別な「パイ」というカテゴリーに属しているわけではありません。そもそも、フランスのベーキングの手法を説明しようとするときに、わざわざ英語の「パイ」を使って表記するのは混乱のもとです。従って、アメリカのパイを理解するためには、まずは一旦、この「パイ」と言えば、折り込み式と練りこみ式、という日本独自の奇妙な固定観念は忘れてください。 

 英語のpie というのは、生地の作り方に由来した、生地そのものの種類を示すものではありません。Wiki によると、フランス語の tartは、英語ではpieと訳すこともtart と訳すこともできると書いてあります。あえて違いを言えば、pieはフィリングの上から、生地で蓋をすることもありますが、tart は常に生地の土台だけを形成するものだそうです。私の個人的な感覚だと、アメリカでは、パイ皿で焼いたものはパイになり、タルト型で焼けばタルトになるという感じです。もちろん、タルト型で焼いたものに生地で蓋をする人はいません!!タルトもパイもキッシュも、ベーキングの形式としては極めて類似したものであり、小麦粉と油脂をベースにした生地に、果物や野菜、肉などのフィリングを包みこんで仕上げたものです。果物やナッツなどをフィリングにすればデザートにもなりますが、野菜や肉などをフィリングにしたものも多くあります。

 パイやタルトで使われる生地は、フィリングを何にするか、焼き型を使うか、フィリングに蓋をするのか、土台だけ何か、などの点によって異なってきます。パイ皿を使うときの生地で、もっとも一般的なものが、先ほど述べた通り、shortcrust pastryと呼ばれるパートブリーゼです。あまりにも一般的なので、shortcrust pastryとpie crust はほとんど同じものとして扱われています。shortcrust pastryは、たまに生地に卵を入れることもあるのですが、生地に卵を入れると固くなるので、基本的に、アメリカではパートブリーゼは小麦粉と油脂、水だけで作ります。その他には、グラハムクラッカーを使った、Graham Cracker Crust グラハム クラッカー クラストや、Cookie Pie Crust クッキー パイ クラストなどがあります。どれもフードプロセッサーがないと作り難いですが、逆に言うと、フードプロセッサーさえあれば、驚くほど簡単にできます。アメリカのベーキングで必要なものは、技術よりも便利な道具であると実感しています。

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