82 Baking Tips

小麦粉の種類と選び方

 アメリカで一般的にベーキングに使われている小麦粉は、all purpose flour と呼ばれるもので、その名のとおり、「全ての目的に使える小麦粉」です。パンにもお菓子にも使うことができ、グルテンを形成するたんぱく質の含有量はだいたい、10パーセント前後のものが多いようです。あえて、日本で似たような小麦粉を探せば、中力粉や準強力粉と呼ばれているものが該当しますが、必ずしもこれらを使う必要はありません。家庭で行うベーキングで優先すべきことは、常に同じ材料を使って、一定の品質を維持することではなく、冷蔵庫やパントリーにある材料を効率よく消費することです。基本的には、手元にある材料で作ればよいと思います。しかしあえてもし仕上がりこだわるのであれば、ビスケットやパイ生地などは、軽い食感が重要なので、薄力粉の方が仕上がりがよいです。一方、マフィンやスコーンなど、ある程度重量感が欲しいと思うものは、中力粉を使うのがお薦めです。またベーキングとは関係ありませんが、ペシャメルソースやルーを作るときに使う小麦粉は、グルテンが多い多いものの方がだまになりにくく使いやすいので、これも中力粉、もしくは強力粉を使う方が適しています。

小麦粉はふるいにかけるべき?

 日本のお菓子作りの本には、ほとんどの場合は小麦粉は生地に混ぜる前に、最低でも一回はふるいにかけるように、中には二回ふるいにかけるように、書いてあることもあります。ところが、アメリカのベーキングの本では、ふるいにかけるように記述があることは稀です。これは、一つには、日本では、だまになりやすい薄力粉を使用しているためと考えられます。実際、中力粉を使う場合でも、一度篩にかけた方が、とくにマフィンなど最後に粉類を液体に混ぜ合わせるような場合は、仕上がりがよくなります。時間的に余裕があり、どうせ作るなら、とことんこだわりたいという人なら、粉類はふるいにかけた方がいいでしょう。また、重曹や黒砂糖など、そのままだとだまになりやすい材料を使うときは、少し注意が必要です。一方、最初に油脂類と粉類を混ぜ合わせるような、ビスケットやパイ生地などの場合、ふるいにかける必要はありません。それ以外の場合でも、多くの場合は、失敗なくおいしく仕上がります。家庭で行うベーキングは、自分自身が納得する方法で、無理なく楽に、楽しんで行うことが最も重要だと思います。

小麦粉の量り方

 日本のお菓子の本でも、アメリカのベーキングの本でも、正確な計量(exact measuring) が重要であると書いてあることは多いです。小麦粉や砂糖など、ドライな材料に対して、牛乳や卵、油脂などのウェットな材料の分量が少ないと、生地は固くなるし、逆に多すぎると生地はゆるくなります。生地の状態を適切に保つために、材料を正確に計量することは重要です。しかし、何を基準にして計量すれば、正確と言えるのでしょうか。一般的に日本では重さを基準に粉を量りますが、アメリカのベーキングでは容積で量ります。最近では、重さで量る方が正確であると主張する人も少なくないのですが、圧倒的に、「カップ〇杯の小麦粉」という、量り方が主流です。

 計量カップの大きさは、日本ではカップ一杯が200mlであるのに対して、実際にアメリカで使われている計量カップは、1カップは約237mlです。液体を量るための計量カップとは別に、計量用の大匙スプーンをさらに巨大化させた、粉を量るための専用の計量カップがあり、これに粉をすりきりに入れて量ります。今日ではデジタル式のキッチンスケールが普及しているので、粉を量るのはそれほど手間ではありませんが、アナログ式の量りしかなかったときは、計量はかなり面倒でした。まず、ボールの重さを量り、例えばボールの重さが258グラムで必要な粉の量が150グラムだったとしたら、量りのメモリが408を指すまで、粉をボールに入れる、などというような細かい計算を瞬時にしなければいけません。それに比べると、カップに一杯に小麦粉を摺り切りに入れて量るという方法は、非常に簡単で計算を間違えるという失敗もありません。

 一方、粉の重さは、粉の種類や、粉に湿気をどれだけ含んでいるかによって、かなり違ってきます。アメリカの計量カップで、カップ一杯に小麦粉を入れて量ると、おおよそ115グラムから145グラムになります。小麦粉は冷蔵庫で保存して、粉が少し乾燥気味になると、かなり軽くなります。決して、一カップ当たりの重さは一定にはならないので、レシピのように、分量を客観的に明示する指標としては、重さの方が適切かもしれません。実際、重さで量るのは、今日では全く難しくありません。むしろ軽量カップで量る方が、調理スペースを必要とするし、そもそもアメリカの軽量カップは日本のお店には売っていません。アメリカのレシピでベーキングを頻繁にするという人は、USのアマゾンで仕入れておくことをお勧めしますが、基本的には日本レシピでしか作らないという人は、わざわざ購入する必要はないでしょう。

 しかしながら、重さできっちりとレシピ通り正確に量れば、必ずしも理想的な焼き上がりになるというわけではありません。前述したように、小麦粉のグルテン含有量は同じ薄力粉でもメーカーによって違いがあるうえ、小麦粉の保存の仕方によって、水分量に違いがあります。小麦粉をグラム単位できっちりと計量するよりも、その都度、生地の含まれる水分量を調整して、適度な硬さを調整することの方が、より有効な手段です。ベーキングは基本的に、小麦粉、砂糖、塩、ベーキングパウダーなどの膨張剤などの乾燥した材料(ドライ)なものと、水、牛乳、卵、油脂類などの液状の材料(ウェット)なものをそれぞれ別々のボールに混ぜ合わせ、最後にドライなものとウェットなものを一つのボールに入れて混ぜ合わせて、生地は完成します。ウェットな材料を混ぜ合わせる時、牛乳や水など、主な液状の材料をレシピに記載されている量の8割程度に抑えておきます。そして最後に一つにませ合わせる時に、水や牛乳などを少しづつ加えて、硬さを調整するようにします。

 皮肉なことに、「正確」な計量が重要といわれてりうものほど、レシピに頼りすぎてはいけないという側面がありませ。そもそもレシピは何のためにあるのかということを理解する必要があります。かつて、家政学の研究者は、プロの料理人が作る料理を、保存容器に残った食材の重量を量り、料理前の重さから逆算して、料理人が実際に使った食材の重さを算出してレシピを作成したそうです。レシピとは、料理の作り方を知らない第三者が、出来るだけに簡単に料理を再現できるようにするための指南書にすぎません。あくまでも料理の作り方を伝えるための手段でにすぎないのであり、決して美味しく料理を作るというゴールではありません。実のところ、経験を積んだ料理人ほど、レシピをあてにしていないと思います。

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